走時曲線下図を用いた解析実習 2021年版 その2.            2021年5月26日  Y.Okamoto

このページでは,

2.P波,S波の走時をプロットした図下図作成レシピで作成法を詳述,あるいは下記の筆者の例を用いてもらってもよい)
の実習について詳述する.その1.と異なるのはS波走時についても計算している.

 この実習で求める作業は以下の図のようになる.図は筆者が大学の授業で用いたもの.ここで用いた1995年兵庫県南部地震の走時元図はこちら
データはかなり古いので今の学生さんには遠いものと映るはず.ぜひ下記の新しいデータで作図させてほしい.

※ また下記の実習の手引きでは,P波,S波の折れ曲がる震央距離を同じ距離にするように求めているが,これは実は自明ではない?(註.この件,5/27現在調べています).
ただ,異なるLを用いると計算が煩雑になるので,実習ではこのようにしている.



実際の地震の走時グラフの例(その1.と同じ地震を採用)

地震の諸元:2020年9月4日9時10分53.3秒 福井県嶺北地方 M5.0 深さ7km(JMA震源リストは下記)
2020  9  4 09:10 53.3  36° 6.9'N 136°11.3'E    7     5.0  福井県嶺北
図から求めるものは下記(最後に筆者の解析結果を載せる.参考にしてください)
1) 地震の発震時刻 To [h:m:s]
2) 走時曲線の折れ曲がり点の距離 L [km]
2) P波,S波速度(地殻内とマントル)Vp, Vp',Vs, Vs'[km/s][km/s]
3) 地殻の厚さ(Moho面の深さ)D [km]

元図のダウンロードはここから,



これに走時曲線を引き,上の1)から4)を求める.筆者の結果例を下記に示す(これが正解というわけではない).



1) 地震の発震時刻 To = 09:10:54.1[h:m:s] (JMA Catalog = 09:10:53.3[h:m:s])
2) 走時曲線の折れ曲がり点の距離 L = 164 [km]
2) P波速度(地殻内とマントル)Vp=6.21, Vp'=8.17, Vs=3.57, Vs'=4.59[km/s]
3) 地殻の厚さ(Moho面の深さ)Dp = 30.2[km],Ds = 29.0[km]

この値をペーストアップ波形図から求めたもの(波形数はこの解析よりもはるかに少ない)と比較すると興味深い.
http://yossi-okamoto.net/Seagull_Lab/TT/TT-Analysis_Part1.html

参考に,この地殻内のVp,Vsから大森の距離公式の係数kを求めると,8.40km/sとなった(中高の理科,地学の教科書の値は6〜8).
これに関しては以前に,共著で下記のような論文を出版しました.
加藤護・岡本義雄:理科教育で用いられる距離に関する大森係数について,地震 第2輯 69,35-39, 2016

<注意点>
1) 折れ曲がり点の距離は,自分で決める.
2) 折れ曲がり点より遠方の,屈折波の走時は,振幅が小さくわかりにくい事が多い.観測点の波形のうち明瞭なものをつなぐ(つまり到着の早い点をつなぐ)ようにするとよい(上の図を参照).
3) 地震の発震時刻は,この走時曲線から求めた値は,JMA(気象庁)の決めた値と異なる.この理由を学生に問う(地震の深さの影響が出ている).
4) 地震波速度の求め方は上の図のように,走時曲線の傾きから求めるが,あらかじめ,印刷した図の縦軸のmmと時間の秒のスケールの変換定数をどこかで測定して,求めておく.
上の図では左下に,30秒で68.6mmという実測値がメモられている(これは選んだ地震や図の印刷時の倍率で異なる).
これにより距離を100kmに固定して作った直角三角形の縦の時間軸の長さを秒に変換する.あとは割り算で速度が出る.


<他の地震の例>

最後に,筆者が作成した他の地震の走時のグラフと筆者の解析例を紹介する.参考にしてほしい.また上記大森係数の値も参考に載せています.

・2015年 2月6日 10時25分12.4秒 徳島県南部 M5.0 深さ11km (地震月報データは下記)
10 25 12.4 0.0  33 44.0 0.1  134 22.2 0.1   11 0  5.1D 4.8W B (6,231) TOKUSHIMA PREF           NPS
走時グラフ 解答例

・2015年6月4日 4時34分15.2秒 北海道東部(弟子屈)M5.0 深さ0km
04 34 15.2 0.0  43 29.5 0.3  144 03.6 0.4    0    5.0D 4.8W A (1,  7) TESHIKAGA REGION         NPS
走時グラフ 解答例

・2016 10月21日14時07分 鳥取県中部 M6.6 深さ11km
14 07 22.5 0.0  35 22.8 0.1  133 51.3 0.1   11 0  6.6D 6.2W C (6,221) EASTERN TOTTORI PREF     NPS
走時グラフ 解答例

・2019 12月4日10時38分53.1秒 茨城県北部 M4.9 深さ9km (気象庁震源リストは下記)
2019 12  4 10:38 53.1  36°48.5'N 140°32.3'E    9     4.9  茨城県北部
走時グラフ 解答例

・2020 4月23日13時44分22.1秒 長野県中部 M5.5 深さ3km 
2020 4 23 13:44 22.1 36°13.5'N 137°39.7'E 3 5.5 長野県中部
走時グラフ 解答例

以下,作成次第アップロード予定.


<お願い>

 同じデータを用いても,生徒や学生集団の特性で,異なる結果がでると興味深く地学教育の研究になると思います.それを少し調べようと思っています.

※ もし上記の走時のグラフを用いて生徒に実習させた場合,生徒の計測値の度数分布を作りたいので,生徒の測定値の度数データがあればお送りいただけると助かります.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chigakukyoiku/69/3/69_125/_pdf/-char/ja
上記文献の図2から図5のようなものを作ることを考えています.
詳しいことは下記にメールをいただくとありがたいです.
yossi.okamoto<at mark>gmail.com


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