身近なデータからみる気候変動(新設)2022年2月11日,2023年2月2日補遺.
以前から地学教材になるのではないかと,様々な身近なデータと気候変動との関連を観る手段として利用を考えてきた.
その中でここでは,以下のものを紹介する.利用の際はクレジットをかならずお書きください.
※ 気候変動を身近なデータから観る場合の注意事項(2023-02-02)
誤解する向きがあると行けないので,注意を幾つか.
筆者は気候変動の専門家ではないが,2007年前後の「地球温暖化懐疑論」論争に興味をもって,関連資料を幾つか読み漁ったことがある.
まず1)に関して,積雪量を支配する変数は気温だけではない.そ
のほかに大気中の水の量や,高層大気の循環,地形など様々な変数が関係する.さらにその変数は互いに独立ではなく,従属する関係にあるから,より複雑にな
る.単純に積雪量が減ったのは地球温暖化の結果であると結論できない点には注意.同じ議論は大陸氷河の後退に関する議論にも観られる.
2)に関しては,桜の開花を支配する気温が自然由来のものか,あるいは観測点の都市化による影響を
受けているのかも重要な点である.これはとくに懐疑論の立場から近年の温暖化を,自然変動ではなく,単なる都市化のみかけのものに過ぎないという議論がか
つてなされた.今はやや賞味期限切れの感もあるが,これらの懐疑論の主張の側にも科学的には,参考にしなければならない部分もあると考えている.詳しくは
筆者の大学授業用の気候変動についての下記の質疑応答集や資料も参考にされたい.
http://yossi-okamoto.net/Univ_Lec/2018_AS/index.html
http://yossi-okamoto.net/misc_resources/Skepticism_2008.pdf
1)金剛山積雪データ
金剛山は大阪府と奈良県の境にある大阪府の最高峰である.四季を通じて登山者が絶えないが,特に冬は手軽に積雪と霧氷を味わえる山として人気が高い.
この山の関係者の方が,下記の情報サイトを運用されています.その中にある積雪情報には,冬季に毎日測定した積雪量が載せられています.
そのアーカイブデータを使用させていただき,下記のグラフを作成しました.
金剛山の登山情報などのサイト
http://www.kongozan.com/
図の説明.横軸が年,縦軸が12月1日からの経過日数(手前ほど春に近い).高さが日別の積雪量を示す.2020年のデータはグラフ製作時で終わっている.
これを観ると,2000年代の後半から2010年代の前半にかけての積雪量が目立つ.多いときは60cmを越えている.しかし近年は積雪量が少なくなり,
積雪0の日も多くなった.地球温暖化がこれの原因かの論評は筆者には困難であるが,1つの兆候とみなすことができるかも知れない.
<参考>他の町での積雪量(工事中)
同様に他の場所での積雪量の推移もグラフにしてみた.
雪深い白馬山麓の長野県小谷村の積雪量(JMAデータより,1990年から2020年途中まで,ほかは金剛山と同じ)
金剛山に比べると,年変化が少ないように見える.しかしここ数年の落ち込みが目立つ.
岐阜県高山の積雪(データなど小谷村に同じ)
こちらは小谷村に比べるとやや年変化が大きい.また年ごとの変化の傾向は小谷村と少し異なる(小谷村とは年ごとのグラフの色は同じ,金剛山とは異なる).ここ数年の落ち込みは小谷村に似る.
2)古文書に残る桜の満開日のデータ
桜の開花日や満開日は,生物気象観測のデータとして,気象庁や気象官署が観測をしていた.しかしそれは近代になってからの記録であり,古いものは古文書に頼るしかない.
幸い, 大阪府立大学の青野靖之氏のサイトに「京都における桜満開日」を古文書から調べたデータ
http://atmenv.envi.osakafu-u.ac.jp/aono/kyophe/
が記載されていたので,これをグラフ化してみた.
縦軸は,3月31日を0として,前後で日付を表示.+は4月,あるいは5月を,−は3月中を示す.満開日付にはかなりばらつきはみられるが,粗っぽい多項
式の近似曲線を引くと,歴史年間で興味深い傾向が見れるように思える.線は上にいくほど満開日が早い(つまりその年の春が温暖?)ことを示す.
なおクレジットは大阪府立大学の青野靖之氏のサイトによれば以下のとおり.
【15世紀以降のデータは】
Yasuyuki AONO and Keiko KAZUI, 2008:
Phenological data series of cherry tree flowering in Kyoto, Japan, and its application
to reconstruction of springtime temperatures since the 9th century.
International Journal of Climatology, 28, 905-914 (DOI:10.1002/joc.1594).
【9~14世紀のデータは】
Yasuyuki AONO and Shizuka SAITO, 2010:
Clarifying springtime temperature reconstructions of the medieval period by gap-filling
the cherry blossom phenological data series at Kyoto, Japan.
International Journal of Biometeorology, 54, 211-219 (DOI:10.1007/s00484-009-0272-x).
【全体にわたりデータを一部追加し,下記論文で改めて復元結果を発表しました。】
青野靖之, 2012:
植物季節の長期変化と気候変化.
地球環境, 17, 21-29.
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