南アフリカ渡航記 虹の国への学会と地質巡検 09/14 2010新設.03/03 2019写真リンク追加

その2.南アフリカ Mupualanga地方地質巡検(09/04-09/09)
バーバートン〜
クルーガー国立公園〜ブライスキャニオンの

バーバートン編その1.巡検1日目(03/03 2019写真リンク追加
バーバートンの最下部に近いTheespruitFm.のシストとKomati Fm.のKomatiite,枕状溶岩,およびTheespruit plutonのルーフペンダント.

2010年9月04日早朝,8時よりガイドを入れて8人のメンバーで上記の地質巡検に出発しました.世界最古の岩石の見れるバーバートンに出かけるとあっ て胸が高鳴ります.ただ,私以外は米国4人,カナダ1人,フランス1人,ガイドが地元南アフリカ1人ということですべて英語ネイティブに準ずる人たちばか りで何せ英語の聞き取りに苦労の旅が始まるのです.

この地域の文献のうちネット上で入手可能なものとして
http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0009254108005160
で表示される
M.J. Van Kranendonk, A. Kröner, E. Hegner, J. Connelly: Age, lithology and structural evolution of the c. 3.53 Ga Theespruit Formation in the Tjakastad area, southwestern Barberton Greenstone Belt, South Africa, with implications for Archaean tectonics, Chemical Geology 261 (2009) 115–139
というものがあります(pdfは有料でした).
STOP1のTjakastad areaの地質に詳しい(全部にはとても目を通していませんが).

この地域のKomatiiteに関しては,下記の文献が参考になります(いずれも旅行後に気づいたものばかりで,これを調べておいて行ければよかったので すが)
http://sajg.geoscienceworld.org/cgi/content/abstract/103/1/47
J.C. Dann,2000: The 3.5 Ga Komati Formation, Barberton Greenstone Belt, South Africa, Part I: New maps and magmatic architecture


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宿の結構気に入ったスペイン風オムレツの朝食を済ませて,待っていると巡検の迎えの車が朝8時ぴったりに 来ました.
治安で悪名高いセントラル駅あたりを高架で越えます.朝のまぶしい市内の光景です.空は雲一つない快晴. これは学会に来てからずっと続く好天です.
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東に向う高速道路はそこら中で拡張工事の真っ最中.そのたびに渋滞となり,郊外にある空港のそばまで結構 時間がかかりまし た.
渋滞の待ち時間に空港にちょうど着陸する飛行機が見えたところです.
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JNBから郊外を東に走ると,やがて鉱山や炭鉱がたくさん見えてきます.ドライバーの向こうに炭田の露天 掘りの風 景.車はHundaiの9人乗りのバン.でかい米国人たちを積んでいてもよく走る.最初フォード車かと思っていた. こちらは炭鉱の鉱石運搬システム.ミドルバーグを過ぎたあたりか.この国は古生代が寒くなりはじめたペル ム紀の石炭が山ほどあって,しかもほとんどが露天掘りです.この国の発展はこの石炭から生み出される火力発電の電力が支えています.このあたりの炭田の話 は8年前の旅行記をご覧ください.
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途中の田舎町で昼食.何か西部劇に出てきそうなレストラン.名物のパンケーキは量が多すぎて半分残す羽目 に.この日からごはんとジュースやコーラを飲む日々が始まります.
さてゆっくり休憩を取ったあと,Tjakastad の村を越えて,最初の巡検地STOP1は村はずれの給水塔のある小高い 丘の上です.
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車を降りてまず塀に沿って北東へ.日差しは北側(左側)から射していることに注意(南半球だからです).
バーバートンの35億年前の地層が分布するコマチ川が望める場所で,地質図を出して我々に説明するガイド のDr.Dion氏.地質コンサルタント業を営む傍ら,この場所を世界遺産にするための準備を仕事にしている.
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北東方向を望んだところ.中央にあとで行くコマチ川の支流のクリークがあります.左の街は Tjakastad 村の一部です. 南の方を望んだところ.このサボテンのような植物がこのあたりの乾燥気候を物語っています.
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岩石はどうも低変成の堆積岩のようですが,詳細は聞き逃しました(あとで上記文献を調べるとfelsic schistとあるもののようです.部分的に角閃岩相に達する変成作用を受けていると書いてあります).
こちらはマフィックな玄武岩みたいな岩石.このあたりでは最も古い35億年と文献にはあります.
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あと動物のドロップ!これはこのあたりのフィールドの至る所に落ちています.牛やロバを飼っているからな のか,それとも自然のシマウマやバッファローなどによるものかは不明です. Tjakastad の街の西にはほぼ垂直な岩脈が長いリッジを作っている.これをみながら車は北北東にコマチ川 の クリークを目指します.


さて小町川いやKomati riverを渡ります.何となく胸が踊ります(これはビデオからの切り出しなのでリンク画像なし).
地層や岩石の名前となった有名なKomati riverはほんの小さな川でした.
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さて村はずれの道をたきぎを背負う村人のあとを辿って小さなクリークに向います.あたりは貧しい村の家 が点在する典型的なアフリカの農村です.
子供たちの出迎えを受ける粗末な家のそばを通って川に降ります.Komati川の支流のさらに小さな小川 (クリークと言っていた)のほとりです.
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ガイドのD氏が何かみつけました.
これが名にし負うコマチアイトのspinifex模様そのものです.右の文献どおりの断面が岩石の表面に 見えています.1600度を越える高温のマグマが過冷却で一気に結晶化したものだとものの本に書いてあるのですが.図で下の茶色く風化した部分はかんらん 石が密集した部分だと右の文献にありますが,このときは興奮してこの部分のサンプルを取り忘れてしまっています.
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spinifex模様を拡大します.ここの岩石は典型的なコマチアイト(超塩基性でMgが20%近い)だ と巡検ガイドには書いてあります.この場所ではありませんが,この川の転石で典型的なspinifex模様の岩石を2個採集しました.岩石は今日本に向け てインド洋を渡っているはずです. さて米国の大学の専門家Cさんが見ているのは(彼はこの日の数日後,熱が出て調子が悪いと言ってました. どうもTick,ダニにやられてTick feeverのようだと言ってました.このあたりはそういうダニがいると聞いているので半袖半パンは要注意のようです.私は悪運強くまったく大丈夫でし た)
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風化した別のspinifex模様の部分でした.これらは大体34億年と文献にあります. 少しそこから上流に遡った場所でDさんが何やら水を露頭にかけています.
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これが教科書にもよく出てくるKomatiitic Basaltの枕状溶岩です.マグマオーシャンからひえ固まった地球で最初に形成された海洋地殻の断片だと考えられています.
左の露頭を撮影するフランスのFさんの足元も枕状溶岩.純粋コマチアイトより少しSiO2分が多くなって いる部分です.
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これは確かVesicularとかOcelliとか言われる玄武岩の丸い組織です.これの成因を扱った論 文もどこかにあったような.
さてあたりで飼育されている(?)動物を押しのけて,さらに上流に向うと
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別の場所にまた典型的な枕状溶岩がありました.右の壁です.
こちらの方が重なりがよくわかります.どちらが上方か考えてみましょう.
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足元の岩石もちゃんと枕になっています.しかし世界で最初にできた海洋地殻の上にいるというのも何か不思 議な気分です.
さて,川から上がって車で一走り.典型的なspinifex模様のサンプルが採集できるということで,最 近地質学者のゴールドラッシュのようになっているとガイド氏がいう場所です.
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こちらは典型的なコマチアイトではなく,確か輝石や角閃石のspinifex模様の玄武岩だったと思うの ですが,素晴らしく大きな針状の結晶が岩石に浮かび出ています. こちらはランダムな模様から草のような模様に遷移する部分
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輝石あるいは角閃石?の結晶がきれいに見えています.
ここで当然ですが,コマチアイト風玄武岩(が正しいのか)を採集しました.高2,高3の授業で見せたもの です.この巡検ではあとの場所でも 岩石を採集したので,最後に14kgほどの石を郵便局から日本に送りました.今インド洋を船で渡っているはずです.また2学期の最後の方で紹介します.
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さてここから車は南アフリカの田舎町をひた走ります.あまり白人をみか けない地域です.
大分西に走って個人の農場の入り口の柵を開けて入ります.助手席に乗っ た大学教員のD氏が柵を開ける当番.このあと5箇所くらい柵を開けていました.
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小さなクリークのそばで車を止めて,歩くと岩盤が露出しています.もう 夕日が西に傾いています.PillowBasaltの中に貫入した花崗岩質のマグマのために緑色岩がルーフペンダントになっている場所と巡検の案内にあり ます.
構造地質学で有名なブーディン構造.白い花崗岩質の岩石は hornblend tonalite-trondhjemiteと案内書には書いてあります.
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緑の古い石があとから貫入してきた花崗岩の上方にルーフペンダントで浮 いた形になっていると考えればよいのか.
それにしても,ブッシュベルト貫入岩体のクロマイト層を垂直にしたよう なこの風景はなかなか見応えがあります.
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貫入してきた花崗岩類の接触部はやはり粒が細かくなっていました.
さらにその花崗岩体(左)と周囲の片麻岩類(右)との接触部だとガイド 氏は言うのですが.
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さて夕暮れ迫る中,先ほどの露頭を後にした私たちは巡検最初の宿に到 着.農場が民宿を営んでいる場所です.
広大な牧場の中に宿の小屋は建っていました.ここが今夜の男性5名の宿 となります.女性2名は別の棟.ガイド氏も別棟でした.
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部屋が3つあって,ベッドは2つ.カナダのリタイヤした元教授と同室に なりました.彼は無口なので私を選んでくれたのでしょう.
ただ,山小屋に近く,トイレとシャワーの部屋には扉がなく,彼がノープ ライバシーだと笑っていました.トイレは外の居間にもあるのでそちらを使っていました.居間にも1人大学教授が寝ています.
これで本日の巡検は終了.Tjakastad の街でワゴン車と乗用車の事故直後を目撃.本当によく事故を見る国で す.車はへこんでいますがまあ,たいした怪我はな さそうでした.宿は民宿ですが,親切な夫婦と息子夫婦が経営?大型犬が2匹のほか,放し飼いの犬がたくさん居ます.また敷地はたくさんの柵と鉄条網に守ら れています. さすがに南アフリカだけのことはあります.この夜は老教授の咳で夜中に起こされましたが,まあ疲れていたのでよく寝た方でしょう.英語の聞き取りが大変な のは最終日まで続くのですが. 2010.09/19
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