Norway渡航記 その3 オスロ学会編1日目,「気候変動と太陽活動セッショ ン」と2日目の巡検「オスロ外湾の古生代リフト活動」.2008.08/15 2008.08/30改訂 2008.09/05 再改訂
 8月7日はオスロ滞在実質3日目,学会中まじめに聞いたセッションの1 つで,午前中地球温暖化に関して気候変動と太陽活動には密接な相関があると主張するグループのセッションを聞いていました.8月8日は学会2日めの巡検で 1日で古生代末に生じたオスロリフト(割れ目)の堆積物(主にペルム紀と石炭紀で一部シルル紀の石灰岩を含む)を船で回って見る巡検に参加しました.オス ロフィヨルドの外側部分,つまりオスロから遠いところにあるポイントを4つ回りました.参加22名のうち私を含む5名も日本人がいて,この地域への関心の 高さを 感じました(オスロに近い方の地層はもっと古くカンブリア後期からオルドビス紀に相当するのですが,それは2日後の化石巡検で報告します).それではその 報告です.

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学 会参加の1日めは「地球温暖化と太陽活動」のセッション.いわゆるCO2懐疑派のセッションでした.最初は英語が流暢で早いSoon Willie氏.IPCCへの批判の急先鋒だとか.どうもNASAのGISSの 気温データに文句をつけているみたいで,シミュレーションもパラメータ次第でどうにでも結果が出せる.自分はでたらめなパラメータで同じような結論を得 た という主張を述べた.IPCCに対する攻撃的な姿勢が目立った.なおNASAのGISSの気温データは下記サイトで地域選択ができます (09/05).
http://data.giss.nasa.gov/gistemp/station_data/
たとえば大 阪を選択するとすごく昇温していますが,屋 久島だと逆にトレンドは下降ぎみだったりします.
懐疑派の主張のきっかけの1つとなった有名な宇宙線強度と下層雲量との 相関を最初に示したデンマークのSvensmarkさん.一転,とても落ち着いた人柄の良さそうな人でとつとつと主張を述べるのが印象的.こ こに彼の最新の論文がある.さらに,IPCCレポート(地球温暖化人為説)を支持する専門家のBlogであるRealClimateでこの懐疑論が取り上げられていて,多数の意見が寄せられています.詳細は下記サ イトに(09/05).
http://www.realclimate.org/index.php/archives/2008/08/are-geologists-different/
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いくつか式を示して,太陽活動と雲量や気候との相関の証明を強化してい ましたが,式の内容は聞き取りの最初なのであまりよくわからず.
3番目はparticle physicistでLancaster UniversityのProfessor Terry Sloan.彼も人間活動ではなく,宇宙線の影響による温暖化を主張.
こ こに彼の主張がある.あともう一人,海洋の熱塩循環によるディレイが北米の洪水の原因という主張をしたNASAの人が講演をしてこのセッションの 午前の部は終了.あとはポスターを見て回った.
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ということでこの日は会場を午後2時に切り上げ,今日で帰る娘を見送り に空港まで.この特急に乗りますが,これが片道20分ほどで170kr(約3500円)とバカ高い.「関空はるか」の半分くらいの距離なのですが−−.
その航空券のような切符をオスロでは珍しい自動改札に通します.といっ ても切符は手前に返されるので戸惑うばかり.他の駅は基本的に改札はないので,切符は持ったままとなります.
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オ スロ空港駅についたところ.このあとフィンランド航空で帰る娘のチェックインを手伝い,セキュリティの列に並ぶのを見届けて,ばか高い特急ではなく, IGCのタグで無料で乗れる(と言っても これまた1日100ユーロを越すばか高い学会参加費に含まれているのですが)普通(Local)に乗ってオスロ市内に帰りました.
ということでこの日の夕食はわびしい,学会で出た昼のサンドイッチと, ごらんの近所のスーパーで買ったパンとお気に入りの胡椒ハムなどとなりました.あっ,もちろん1本600円を越す缶ビールを1本飲んで,明日の巡検に備え て早く眠ることに.
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翌朝8時に王宮前の古い大学の建物前に集合.ところがまだ来ていない人 を待って出発は少し遅れる.どうもWebの記述と昨日聞いた集合時刻が30分違っていたような.とりあえずバスで港まで出発
船に乗る港はオスロから南へだいぶ走ったきれいな小さな町になったとこ ろ.
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ここでHANKO号という50人以上は乗れそうな船に22人の参加者が 乗船.最初に船長から船内の安全の注意を受ける.そういえば今回の巡検はいずれもwaiverを提出しなかったのがカナダと異なるところ.
この港町なかなか絵になる風情.朝からの曇天は続く.
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コースの説明などを巡検リーダーから受ける.この日のリーダーは2人い た.
このあたりの平坦は陸地はパーミアンのsillだったかlavaだった かと説明を受けたような.
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あたりの島はきれいな地層が見える. これもそうで,ほぼ水平な地層が続いている.
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最初のポイントには直接船ではいけず,小舟に乗り換えて渡ります.人数 が多いので2回にわけて渡ります.
どうも小さな釣り船かダイビング用の船のようで,レーダーというか GPSかな?は当然日本の古野電気製です.このメーカーは地殻変動測定用GPSでも有名ですね.
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さて,この島は見事なアッパーサイルリアンの石灰岩が成層している場所 で,またその層理面に見事な化石が現れています.tidalflatや lagoonの環境下と資料にあります.
さっそく見つけた小さな腕足貝.あとでもっと凄いのも出てくるのです が,最初からこの島は凄い!Upper Silurian (Wenlock) limestonesof a shallow marine carbonate ramp setting.とも資料にあります.
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中国人のRさん.山東半島出身ですが,現在はオーストラリアの大学の研 究者です.中国なまりの早口の英語で私にはなかなか解せないのですが,Nativeの人たちは結構分かっているようでそれが不思議です.彼が写真を撮ろう としている黒い岩体が石灰岩層を断ち切る玄武岩の岩脈です.
ここには堆積痕と直角貝なのか,海百合の茎だったか聞き逃した化石が.
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きれいなサンゴの見えるところ.
これも見事な玄武岩の岩脈.このあたりの島には結構入っているもので す.
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地層の説明をする巡検リーダー.彼は実は石油会社の技術者だったかな.
よくみると石灰岩層なのに,クロスラミナが見えます.low angle cross-stratified grainstone--carbonate bankと資料にあります.
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さて,サンゴやら何やらが密集した部分.ラグーンの石灰岩だという説明 があったような.あれ2日後の化石巡検と混乱しているかな?
さて,見事な化石はこの付近だったか.
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びっしりと層理面に密集する腕足貝.1cmほどですが,殻がきれいで密 集しているのが特徴.残念ながら新しい法律で保護されているとかで,ここでは撮影のみ.
同じく,針状の何とかいう化石だと説明を受けたのですが資料が到着して からまた調べます.tentaculites ornatusと資料にあるものかどうは不明で す.調べると謎の化石とも書いてあります.良く見ると巻き貝のようなネジ構造が見れます.
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いたるところに化石は密集しています.石灰岩の地層の層理がきれいなの もこの島の特徴か.オルドビス紀は海進紀で世界的に砂岩,泥岩が少なく石灰岩層が多いとはwikiの説明です.
この部分にも化石らしい跡がびっしり.またオルドビス紀はサンゴなど石 灰質の殻を持つ生物が爆発的に進化したようです.
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海岸の石はこのように堆積岩+玄武岩+基盤のラパキビ花崗岩のようで す.
さて迎えの船がきてしまいました.都市から近いところに化石が多産する というのも多くの地質学の研究者を輩出している理由か.
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あと船が折り返してくるまでの間にサンゴなどの写真をとります.
ようやく乗船.これは釣り船と同じ原理で,推進力で岩に船が押し付けら れている間に乗り込みます.
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さて,次にかなり走って2番目のポイントに着岸.
ここはごらんのように桟橋に着きました.Sandstones of the HolmestrandFormation, foreland basin to the Caledonian Orogen. Uppermost Silurianと資料にあるポイントです.
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大きな岩脈がアルコース砂岩層のなかに貫入しているところです.オルド ビス紀の地層としては砂岩は珍しいかも.
アルコース砂岩の基底にはごらんのような礫層もあります.昔なら造山運 動の末期に堆積するモラッセという表現になるのでしょうか?
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ところが,良く見るとこの岩脈が十字状に2本重なっているのがわかりま す.左右に伸びた岩脈を上下に伸びた脈が切っています.巡検リーダーは地質学の原理はこのように極めてシンプルだとうまい表現で言ってました.
その水平に伸びた方の岩脈の表面に良く見るとどこかで見覚えのある滑ら かなへこみが.そうですカナダで見た氷河による擦痕のようです.最終氷期のものだそうです.スケールは当日配布の巡検案内書です.
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砂岩層には教科書的な見事なクロスラミナが発達しています.水流の方向 がわかりそうですね.The sandstones are grey, green and red, well sorted, medium grained sandstones. The lower unit (at Bile) comprises ephemeral stream sediments as stacked sheet-sandstone bodies deposited on a broad costal flood plain.と資料にあります.
様々な堆積構造を残した,アルコース砂岩の地層を追ってどんどん岬の方 まで進んでいくと
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きれいな花が咲いていました.
その先端部に近いところにこれも見事なwater volcano.下から水が抜けたあとだそうです.delta systemのdownslopeという記述も.
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岬の裏側にも見事な氷河痕跡.写真で左手前から右奥にむかっている筋が そうです.最終氷期には当然このあたりは分厚い氷河に覆われていました.そういえばこのあたりには砂浜のビーチはほとんどありません.岩石浜ばかりです. これも地層の風化が進んでいないためみたいです.
さて1時を回って少し遅い昼ご飯.次のポイントまでの船の移動の間に取 ります.最初上のデッキで食べようと思ったのですが,雨が少し強くなってきたので,船室に戻りました.ここで,関東の某県の職員の方々3名と同席しまし た.日本語でいろんな情報をいただき満足.ごらんのサラダのみ食し,サンドイッチの方は例によって夕食に.ゆで卵もあってこの日のホテルの自室の夕食は豪 華?になりました.
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さて,ポイント3で,ここはオスロリフトがひらきだしたところの最初の 玄武岩の溶岩と成層する風成の赤い砂岩層が見られる露頭というか島なのですが,船長の風が強くて波が荒く接岸は困難という判断で,船から見るだけとなりま した.ちょっと残念.アルカリ玄武岩のサンプルが欲しかったのですが.本格 的なリフト活動に伴うRP火成活動に覆われる前の(先立つ),海嶺の最初の噴出物という記述があったような.また私の枕状溶岩のように見えるがという質問 には,違う陸上の噴出物だと答えていた.
灯台が築かれていて,その由来をリーダーが説明してくれましたがどこか にメモがあると思うのですが忘れました.Basaltic lava flows with interbeddedred sandstones. The basalts erupted during Stage 2, and have an alkali olivine basaltic composition and these flows have clinopyroxenepheocrysts. The top surface of the flow shows pahoehoestructures. The red sandstones are partly eolian, partly fluvial.と資料にある場所で上陸したかったのですが.またRed sandstone from eoliansand trapped between the blocky surface of a basaltic lava flow. The sandstone is quartz-rich, fine grained and well sorted and its provenance area must have been from outside the lava fields. The size of the blocks is about 30 cm.とあります.
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さ て先ほどのポイント3の上陸をスキップして,最後の島ポイント4へ.ここも小さなダイビング用のボートで渡ります.先ほどのボートとは違う形です.何せこ の巡検代,1日で145ユーロですから,およそ2万5000円.これくらいは当然と言えますね.先ほどの昼食もノルウエイとしては豪華なのはそのためで す.
さて,この島には荒々しい礫岩が見えます.何でもオスロリフトが最盛期 の断層の活動でできた合同扇状地の堆積物だという説明です.対岸が基盤で,この島はその堆積物が分布し間の海峡に断層があるという理屈です.この断層がオ スロリフト(割れ目)の東の端を形成します.Rift climax. Lower Permian conglomerates. Large alluvial fans alongtheeast-boundingmaster faultoftheOslo Grabenと資料にあります.
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さて,この岩石が礫の大部分を占めるrhombic porphyry という粗面岩が一種のようです.この岩石はアフリカなどのリフトバレーに特有の噴出岩だそうで,中国のRさんもいたくご感動の様子.Deposition of very coarse conglomerates occur all along the eastern side of Oslo Fjord, representing alluvial fans along the eastern bounding fault of the rift. The conglomerates are volcano clastic with about70% rhombporphyry clasts. The rift climax, stage 3という説明.
彼によるとこのリフトは最初にプルームによるドーム活動があって,それ が原因でリフトが割れたという自説をずっと主張していましたが,リーダーたちにはなかなか受け入れらていないようです.あと,このRPは斑晶が大きく,その組成SiO255%にもかかわらず,地質学的 証拠からキラウエアの溶岩のように流動性が高かったことがわかっているが,それはマグマの温度が高く(1050℃),揮発性ガスに富んでいたからではない かという推論が資料にあった.またいわゆるPyroclasticな岩石は見つかっていないそうな.
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海 岸の礫種はこんな具合.さきほどのRPが大部分でそれに細粒の玄武岩や礫岩が少し混じる程度.基盤の片麻岩はどこを探してもない.と言ってました.くだん の中国人Rさんがほらここに落ちてると指摘するとそれは対岸から海に落ちたのが波で運ばれただけでここの礫岩ではないとすげない返事. 下に流動性の高い細粒の部分があり,巨礫が上に乗るという扇状地堆積物 のひとつの堆積サイクルを示すという説明.あとこの崖を越えて,この堆積物を供給した断層からの距離が遠くなる島の反対側までハイク.
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島の反対側はまるでお花畑.
さきほこる菊科の花?や
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おそらくビオラの原種.ピンボケごめん.
また桔梗に似た花など,真夏の島のお花畑状態.
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さて反対側の露頭は,堆積の粒径が小さくなっていって,扇状地の先端に 近い部分を示すという説明.つまりこちら側が断層から遠いのだという構造の説明です.ただ水流の方向などは,扇状地が重なっているから複雑になっていると 説明.
ただここで注目は突き出したこの礫.これは特異な礫だと説明.どこかた 来たのかに注目しているとのことです.
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長石が菊花状をした珍しい玄武岩のようです.くだんのRさんは最初の海 岸で見つけて我々に見せてくれていました. あたりの地面はもぐらの穴だらけ.
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何のふんか分からない動物のふんが落ちています.少なくともうさぎでは ないようです.
また反対側の着岸地点までお花畑を歩いて帰りました.まるで英国北部の ピーターラビットのふるさと(行ったことはないけど)のおとぎの国にきたような不思議な無人島.
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この島での記念写真.オーストラリアの石炭の探鉱技術者が撮ってくれま した.彼の会社は石油以外のすべてのマイニングを事業としているとか.さすがオーストラリアの鉱山会社だけあって,範囲が広い.私の後ろがはしけの小舟で その後ろがメインの船,Hanko号です.
さて船はオスロを目指して北上.この頃になってようやく天候が回復,何 か晴れてきたから皮肉です.こちらに来て驚いたのは晴れ時々雨という天気予報があることです.とにかく晴れと雨のサイクルが短い.低気圧の研究がこの国で 進んだのも伺えるわけです.
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地元の方が最後の晩餐にラム酒?をみんなにプレゼント.とくにロシア人 の参加者が喜んでいた.朝方の雨は晴れてきたのですが,船の上は結構寒くてみんなジャケットを来ています.オスロの気温は旅行を通して最高気温が17- 24℃,最低気温が7-15℃くらいでした.暑い日本からは想像できない涼しさ.でも今年はヨーロッパ北中部が特に涼しかったようです.
腹わたに染み入る船上のラム酒?とともにこの日の長い巡検は終わりを告 げました.そ れにしても1日で145ユーロとはとても物入りな巡検となりましたがまあ良かったかな.帰りのバスでノルウエイの子育て事情など生活状況を巡検リーダーと 女性の研究者の方から教わり大変参考になりました.また関東の某県庁で研究をされているFさん初め,日本人の参加者にも色々とお世話になりました.ありが とうございました.


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