「持続可能な発展とドイツの苦悩」 私(岡本)によるドイツ素描 09/28 2006.

わずか10日あまりの滞在で,その国を語るというのは無謀である.それを承知で,あえて今回のドイツ訪問の感想を記したい.これは現在のドイツを語るというより,おそらく現在の日本を語ることになると思うから.

1.環境先進国

ドイツが環境先進国というのは聴いていたが,
1)各所に林立する風力発電装置
2)徹底したゴミの分別,ペットボトルリサイクル,スーパーの買物袋有料制
3)地下鉄,近郊電車や幹線鉄道に自転車を持ち込める(ただし通勤時間帯は制限あり)など自転車の利用.
4)レストランの飲み物のグラスには容量を示すスケールが入っている.(これは環境とは関係ない?)

など,驚かされることが多かった.

(参考サイト)
持続可能な発展について:大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館サイト
http://www.german-consulate.or.jp/jp/umwelt/politik/index.html
ここには上記「持続可能な発展」のポリシーに沿った,経済,温暖化防止などの項目の説明がある.

1980年以降の世界のCO2排出量の国別推移
http://www.nihonkaigaku.org/ham/eacoex/200prob/210envi/214envi/co2emi/co2emi.html
ドイツおよび旧ソ連を含む東欧の減少が目立つ.一方,インド,中東などの顕著な伸び.日本,米国などのゆるやかな伸びも目立つ.

ドイツは京都議定書の削減目標が-21%であったが,2001年時点で-18.1%を達成している(+2.9%).
削減目標に沿って減らしているのは先進国では私の調べたかぎりドイツと英国のみ.
それに対して日本は目標-6%に対し,+5%で(2001年)で遠く及ばないどころか逆に増やしている.
http://www.german-consulate.or.jp/jp/umwelt/energien/index.html
www.env.go.jp/earth/ondanka/stop2004/pamph14-15.pdf
www.jetro.de/j/hp2005all/seminar/EmissionsTrading/050223kawamura.ppt

京都議定書とその前後の裏話などが一般向けに詳しく書かれているサイト
http://allabout.co.jp/career/politicsabc/closeup/CU20050301A/index.htm

2.ドイツの栄光

 ドイツは自然科学系のノーベル賞受賞者ランキングでも,米国,英国についで世界3位の科学大国であった(過去形).

ノーベル賞の公式サイト
http://nobelprize.org/
国別のノーベル賞受賞者
フリー百科事典(『ウィキペディア(Wikipedia)』)
自然科学部門の国別受賞者数(ただし,2000年?.こんな大事なデータの最新版がない?)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/shisaku/2000data/na13.htm

 ところが,PISAショックがドイツを襲う.15歳を対象とした国別の学力調査で,ドイツは先進国のなかで冴えない順位でしかなかった.
国際貿易投資研究所 田中氏の解説:
http://www.iti.or.jp/flash35.htm
http://www.iti.or.jp/flash75.html
ドイツ研究者ネットワークの解説:
http://www.de.emb-japan.go.jp/nihongo/kenkyusha/kagiseisaku.html

 その原因として,私が今度のドイツ行きで見聞きした限りでは,やはり若者の科学ばなれが日本以上に激しいという印象を受けた.原因は次の2つに要約されるように思える.
1)日本のように,大学入試科目(特に理系)として,物理,化学などが高校で必修とはなっていない.(少ない履修率)
2)若者の漠然とした将来への不安.(勉強などしてどうなる)

特に,2)はドイツの経済状況と密接に結びついているように見える.すなわち,
1)産業的に遅れていた東ドイツの統合
2)移民(特にトルコ系移民)の増加による,ドイツの若者の就職先の減少.
3)進んだ環境政策をささえるため,リサイクリングと風力など高コストのエネルギー使用による生産コストの増加.従って,企業業績が足踏みを続け,企業の研究活動や給与,雇用面で明るい兆しが見えない.

などにまとめられる.

 もちろん,PISAショックを受けて,ドイツの教育省は特に中高校生むけのさまざまな科学振興プログラムを開発中であり,その効果の一旦は今回の巡検でも見せてもらった.しかしその効果で出るにはまだまだ時間がかかるようだ.

3.ドイツと日本.

 ということで,科学先進国としてのドイツは少なくとも,中学高校生の現状を見る限り,かなり苦しんでいるという状況が見て取れる.

 しかし,ここが肝心であるが,ドイツはそこまで苦しんでも,冒頭の「持続可能な発展」を捨ててはいない(今回政権が替わり,政策転換の可能性があると聴 くが,私の出会った人々はいずれも現在のポリシーを支持していると言っていた).彼らにとって,今の苦しみは100年後の子孫にクリーンな地球と豊かな資 源を残すための最善の方法であり,国民の多数がそれを支持しているというということは,この「ピュアな理想」をまだ捨てていないからだと感じた.私はここ にドイツの「崇高」な挑戦をみた.
 翻って,日本,私たちはいまこの「崇高」な理想を少なくとも選択してはいない.かなり改善されたとはいえ,未だアメリカ流の「大量消費・大量生産」の流 れのなかにいる.コンビニは24時間営業を止めそうにないし,むしろ,そういった便利なサービスは身の回りで増える一方である.

100年後に,本当に正しかったといえる選択はどちらの国なのか.また第3の方法があるのか.それを考えさせられる旅であった.

Copyright(c) by Y.Okamoto 2006, All rights reserved.