2020年春,南紀(潮岬,すさみ)巡検

2020年03月 旧知の退職地学教員B先生と,彼のジオパークの仕事の手伝いを兼ねて南紀に巡検にでかけました.ジオパークサイトも数多く訪ねました.その報告です.なお潮岬と大島の火成岩については下記の文献が参考になります.この論文の露頭を訪ねました.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc1893/87/6/87_6_383/_article/-char/ja/

また,昨年6月のジオパーク関連のお手伝いのPageは下記です.
http://seagull.stars.ne.jp/Field_Trip_Japan/Kinan/index.html

2日間の旅程に分けて紹介します.

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高速を飛ばして,途中少しだけ「さらし首」層の偵察.その後,串本でレストランをさがしてようやく見つけたお好み焼き屋でモダン焼きを注文したのですが,結構焼き方が難しい!
うまく焼けたのですが,かなりのボリュームで半分近くを夜食用にお持ち帰り.
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三宅(1981)で記載されている海岸露頭.青少年野外センターのキャンプ場から降りる場所.各種はんれい岩のほか,グラノファイヤーの岩脈も見れる.写真の茶色い岩石がかんらん石はんれい岩の露頭.自形のOlivineが半分近く入る薄片にするととてもきれいな岩石.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc1893/87/6/87_6_383/_article/-char/ja/
さらにその北側に貫入している白いグラノファイヤーの露頭.B氏がスケールになってくれた.
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しかし緑色の塩基性岩との貫入関係はとても複雑でなかなか難しい.ここでは白いグラノファイヤーが緑の塩基性岩に貫入しているように見える. 塩基性岩も実はドレライト(左側)とはんれい岩(右側)があって,その両者と白いグラノファイヤーとの関係はとても複雑.詳しくは三宅論文をごらんください.
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三宅論文にあるもう一つの露頭.こちらは青少年センターから隣の街区の別荘地と太陽光発電の並ぶ海岸台地のどんつきの駐車場から,細い道を海岸にたどります.途中から痩せ尾根となり最後は,ごらんのロープを伝って海岸に降りるきわめて難路の海岸露頭.これ一人だとかなり危ない場所. しかし難路を降りるだけの値打ちはあって,ここには海食台と崖に見事な岩脈が縦横無尽に走っている.
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論文にクローズアップのスケッチがある場所だと思われる.白いグラノファイヤーと緑のドレライト(粗粒玄武岩)の岩脈が平行に走る場所.
岩脈部分のクローズアップ.
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貫入関係の複雑さを垣間見せる露頭.これ形成順をタイの高校の地学のテストに出そうかなと思っている. クローズアップ.周囲の塩基性岩がXenolithとして取り込まれているように見える.また水平な白い脈岩とは別に,写真で垂直方向に貫入する粗粒の白っぽい岩石が見える.
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駐車場に戻るのにまた,ロープを辿って急ながけを登る.サンプルをかついでとても大変だった.
ロープを登った尾根からの海の風景.
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そして今度は立派な橋を渡って大島に渡り,その東海岸にある名勝,海金剛を訪ねた.
あとで訪れる樫野崎灯台が遠望できる.
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1日め最後のジオサイトこの大島の南東側の海岸.ちょうど海金剛の南にあたる岩石浜.ここには白っぽいしそ輝石流紋岩が広く分布すると三宅論文にあるので訪れた. 薄緑色をおびたごろた石で産められた海岸.向こうに神社の鳥居も見える.すでに陽が傾いたなか,適当なサンプルを探す.
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確かに斜長石の斑晶が目立つ溶岩の部分と,やや凝灰質のタフめいた部分が共存する.流紋岩として斑晶のしっかりしたよいサンプルを得られる. こちらはタフ質な部分が泥岩を取り込んでいる.これは論文にも記載がある.
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ここから急いで樫野崎灯台方面に向かう.まず有名なトルコ軍船遭難碑を訪ねる. 一番沖側の岩礁のあたりで座礁したとか.68名は救助されたものの,600名近くが亡くなっとされる.
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その記念碑の近くの樫野崎灯台. 由緒ある灯台のようで,ジオパークの看板が詳しく伝える.
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17時を回ってもトルコの産品を売る土産店がまだ開いていた.ただしスタッフは日本人.
そして夕暮れに映える,トルコ建国の父ムスタファ ケマル アタテュルク騎馬像.
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夕食は串本の大阪王将の天津飯定食.まだ昼のモダン焼きが残っているのでこれでも控えめ.
串本駅前のビジネスホテル.素泊まり5900円.まあまあのホテル.

さて,2日目です.潮岬灯台と橋杭岩,そして今回のメインのB先生の仕事のお手伝いと続きます.

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早朝からジオアークが開くまでの時間を見て,灯台下の露頭を見に出かける.
灯台から奥に潮岬神社がある.
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その境内の切り割りに,基盤の火成岩とその上にのる段丘礫層.
段丘礫は円磨されているものが多い.右下は基盤の火成岩?
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さて神社鳥居の横から小道を海岸に降り立つと,最初にこの露頭がある.見頃な枕状溶岩.
こちらはもう少し海外に近い場所での枕状溶岩.通りかかったカメラを持った老人グループに成り立ちを説明する.
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堆積していった方向が分かるような気がする.左方が上か.
こちらは珪長石質の岩脈.B先生にスケールに立ってもらう.
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反対側にも続く.
今の岩脈を上からみたところ.長く続いている.自分の影をスケールとして入れる.
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さきほどの珪長石質の岩脈に母岩に平行な流理構造が見られる. これは別の塩基性(ドレライト)岩脈.
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その途中に見られるチルドマージン(周囲の岩石による急冷縁).
さらに別の岩脈のチルドマージン.
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これも別の岩脈だったか.
さらにジオパーク側の民宿の駐車場の段丘礫層?
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紀伊熊野ジオパークの館内.
私にはどうも不自然に見えた付加体内の巨大マグマたまりの図.さらにマグマもずいぶん浅いプレート上面で発生しているように見える.
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橋杭岩の説明板と.後述する津波石の説明もある.
たまには記念写真を.
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中新世の熊野層群の泥岩に貫入する石英斑岩.
泥岩との接触部.あまり熱を受けたようには見えないが.泥岩のラミナが見える.小さなリップルもみえるとB氏.
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一番陸側の岩体.岩体自体は少し手前側に傾いて貫入している.さらにノコギリ状に陸側が急峻.海側がなだらなかのはなぜか?あるいはなぜリズミカルに周期的に岩体が侵食から残っているのか?など疑問は尽きない.
道の駅の2Fのベランダから見た全景.崩れた巨礫が一面に散らばっているが,サイズが奥から手前にかけて小さくなっているのは,津波に運ばれたからだという説明がある.本当なのか?

iPhoneのパノラマ写真です.右奥の大島へ渡る立派な橋に向かって伸びています.



ここで潮岬関係は一端終了.次はさらし首層関連の調査,その他です.

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前日偵察のときに撮った「さらし首層」の写真.風が強く波が荒い!
淘汰と円磨度の悪い典型的な礫岩.
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風化面はかなり印象が異なる.
関連する地層を山に入って調査.
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熱心に岩層を調べるB先生.油断するとずり落ちてしまいそうな急斜面.
同じく急峻な痩せ尾根.なかなかスリリングな場所でもありましたが詳細はまだ未公表ということで.
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今度は下から同じ場所を調査.
私の方は完全な角が残る鹿の頭骨とか.
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まむし草の群落とかをみつけて喜んでいました.
こちらはその後に訪れた「こざらし層」と呼ばれるよく似た泥岩のなかに礫が含まれる地層.幾つかの断層でこまかくずれているのがわかります.
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地層の破片が入っていたり,
淘汰が悪く角ばった礫が入ったりと,大変解釈の難しい地層ではあります.これがB先生の研究対象.
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さて,調査後,帰路に立ち寄った戎島というジオスポット.南紀の西岸を通るTuff Dykeというものが露出するそうです.
B先生は学生時代に歩いて渡ったというのですが,どうもその当時の橋は朽ちて今はなく,台座らしいものだけが残って,とても渡れませんでした.仕方なく海岸で同種の火砕岩のサンプルを探しました.
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そしてもう一つ,帰り際の駄賃にと,立ち寄ったのが有名な天鳥の「フェ ニックス褶曲」.教科書にのる有名な場所ですが,国道からの入り口がわかりにくい.最初B先生の記憶を辿って小道を降りましたが滝の絶壁の上に出てしま い,再度今度は私の記憶に頼って別の場所からチャレンジ.何とかたどり着きました.道ははっきりしているのですが海岸におりる最後の地点が急傾斜で危な い.子供や年寄りには危ないのでジオサイトとしての案内を出さないものと思われます.
海岸に降りるのはその道からさらに積み重なった岩の上を落ちないように用心して歩いてやっと褶曲の根本にたどり着きます.目指すのはこの岩の裏側に.
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ぎりぎり海岸にせりだして写真を撮りました.iPhoneのレンズではこれが限界.ただ右側にさらに褶曲部分がせり出すはずなのですが,どうもかなり崩れてしまって,印象が変わっていました.
ここでB先生から,この地層の上下判定は?という質問が出て2人で議論しました.最終的に私が先生が指差す場所にソールマークを見つけて,決着しました.
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さらによく見ると,細かいクロスラミナがあって,その切れ方からここでは逆転していることがわかりました.
この翼の部分の上下判定も難しいのですが,同様に逆転しているらしいと結論づけました.

最後にパノラマ写真を添付.足元の岩も以前よりもかなり侵食されているようで,なかなか全景をうまく捉えられない.自分の影がスケールとして偶然写り込んでいる.左奥に見える谷の切れ込みが最初,間違った滝の落口になっている.


以上が,今回の巡検の報告です.同行していただいて,色々とお教えいただいたB先生に感謝します.


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