2020年秋 神鍋山,玄武洞および夜久野玄武岩公園見学      2020年11月

玄武岩を見に行こうということで,いつも巡検にご一緒している,某高校理科実習助手のMさんとその友人の某中学美術講師のMさんと3人で北但馬の表記の場所を訪ねました. 以下FaceBookに記載した記事です.


晴 天に恵まれた土曜日.いつもの巡検メンバーの附属高の理科助手のMさん,その大学の地学研究会のメンバーで現在附属中の美術の講師のMさんと私の3人で, 北但馬の神鍋山〜玄武洞〜夜久野玄武岩公園を行脚してきました.題して「玄武岩3貫盛り日帰りツアー」に出掛けてきました.昼食は豊岡のスシローだったの で,こんなツアー名にしました.いずれも第四紀の170万年前(玄武洞),30〜40万年前(夜久野玄武岩公園),1〜2万年前(神鍋山)および稲葉川溶 岩流(時代?)という玄武岩溶岩やスコリアを観ることができます.神鍋山は概ね1万年前以降の活動という活火山定義からは,惜しくもはずれて気象庁活火山 リストに載らなかった,近畿圏ではもっとも新しい火山です.しかし,いずれも玄武岩溶岩流が主体で,岩相は灰黒色の細粒,かつ目立つ肉眼斑晶が少ないとい う点で,とても良く似ています.玄武洞は今まで3回ほど地学部引率などで訪れたのですが,今回は広い駐車場が満杯,人が一杯で本当に驚きました.何か観光 地化しています.ジオパークって凄いなという印象です.

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道の駅の側から神鍋山への登山道があって,何かわかりにくい.左上の草原のコーンが神鍋山スコリア丘.右側がスキー場. 山頂へはほんの少し.噴火口と書かれていますが,神鍋山は活動が2万年前ということで,気象庁の活火山の定義(1万年前以降の活動)からは惜しくも外れ,活火山リストには載っていません.
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晴天に紅葉が美しい! あっという間に頂上噴火口.左の窪地が噴火口.
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頂上で見られる気泡を持つスコリア. 2万年の時を経て,スコリア丘の噴火口は露岩はなく,すすきなどの草に覆われていました.その噴火口をバックに,美術講師のMさんと記念写真.この地域はすすきが多く,黄色いセイダカアワダチソウをまだあまり見ない地域でした.
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稲葉川の溶岩流地帯にかかる八反滝.見事な滝ですが,観光客は少ない.ちゃんと駐車場も数台ですがあります.ジオパークになってから看板も立派なものが整備されています. 滝の前の玄武岩溶岩流の露頭.風化すると白っぽく見えるのが特徴.
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稲葉川の遊歩道ぞいに淵やポットホールが連続する.分厚い溶岩流のあと. 河原に点在するスコリア風の穴の空いたものとマッシブな溶岩流と.スコリア風のものは少し色が黒いのが特徴.lマッシブなものはルーペで見ると,かんらん石の斑晶が見れます.
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遊歩道の要所にはこのような案内の看板.とても全部のジオサイトを観るには時間が足らなかった.パンフレットは下記です.とても充実しています.
https://sanin-geo.jp/images/1903kannabe.pdf
さて遊歩道の見学をそこそこで切り上げて,車で1時間足らず.豊岡市の北にある玄武洞にやってきました.昼過ぎになりました.以前に地学部の合宿で来た時とは,風景が一変.なんか素敵な観光地になっていて驚きました.
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Canonの11m相当の超広角レンズを持って行ったので,何とか全景が視野に収まった玄武洞.観光客がポーズをとる脇で,転がった石をルーペで見ていた石オタクは私達だけでした. 玄武洞主部の前に立つ,実習助手のMさん.私の巡検&薄片製作の研究や教材作りの心強い相棒です.同じアングルの写真がたしか2003年ころの地学部合宿の折に撮ったはずでこれから探してみます.
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きれいなわかりやすい案内看板が設置されていました. こ ちらは白虎洞.横倒しになった柱状節理.このような柱状節理を実験室で簡単に作る実験が,1990年代に開発されました(下記論文).コーンスターチを水 に溶いたものを,電球で熱して乾燥すると,見事な柱状節理ができます.この論文に感動した私は,地学部や当時の自由研究の生徒たちとこの再現実験を行った ことがあります.
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/.../10.../98JB00389
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こちらは南北朱雀洞.こちらは垂直方向の節理ですね. 北朱雀洞.落石のためかなり離れた場所からの観察.
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南 朱雀洞.洞窟といっても古い石切り場のあとなのですね.玄武洞は170万年ほど前の溶岩流で,1920年代に松山基範が岩石に記録された古い地球磁場が逆 転していることに気づいたのですが,欧米の研究者は無視.その研究は戦後にやっと評価されて,今では地球史にMatsuama reverseとして名が刻まれています. 駐車場の水辺に石が転がっていたので,少しみやげにさせてもらいました.
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さ て豊岡市内のスシローで遅い昼食を取ったあと,車でちょうど1時間かけて大阪に戻る方向にある,夜久野玄武岩公園を訪ねました.超広角レンズでようやく2 つある石切り場の全景が入ります.ここは山陰ジオパークからは外れているようですが,地元自治体が整備した公園になっています. 駐車場と遊歩道,トイレが整備されていますが,車数台の観光客が訪れていました.
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1枚の溶岩流の構造が大変よくわかる場所です.玄武洞よりもこちらの方がわかりやすいかも. 立て看板も一応整備されていました.
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道を挟んで小さな河が流れる場所は転石も多く,サンプリングには適した場所でした. 道から河原に降りたところ.ここでも柱状節理は顕著.

以下,後日に製作した玄武岩薄片の写真のご紹介です.これもFaceBookの記載を引用します.

巡 検コースは神鍋山から稲葉川沿いの遊歩道,玄武岩の名前の元になった玄武洞,そして少し大阪に戻る方向の夜久野玄武岩公園です.玄武洞は玄武岩の名前の由 来の場所ですが天然記念物で当然,岩石の採集は不可.そこで拡張されてできた駐車場下の円山川の水辺に転石を見つけました.ほかはそれぞれ遊歩道や公園下 の河原の転石を拾いました.それぞれ同じ玄武岩溶岩とはいえ,時代はかぶらないようで,少しずつ異なる特徴が見えてとても興味深いです.現在ほかのサンプ ルについても詳細な薄片の作成を行っているところです.兵庫県立大学客員教授の先山徹先生に地質のご教示をいただきました.感謝申し上げます.なお時代は 玄武洞が一番古く170万年前,稲葉川が時代未詳(2〜70万年の間),夜久野玄武岩公園は30万年前です.

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稲葉川遊歩道沿いの河原の転石.かんらん石の斑晶が巡検コースの中では一番大きく,野外で肉眼でも容易にルーペで確認できる.次の場所の玄武洞のものに比べるとかんらん石が新鮮な感じがする.基質も固く,今回の巡検コースの中ではもっともよいサンプルである. かんらん石は前写真では干渉色が高く,このオープンニコルでは屈折率が高い.さらにへき開(規則的な割れ目)がないので,容易に判別できる.斜長石は干渉色が灰色でかつ長い長方形の形でこちらも容易に判別可能.USB顕微鏡による写真で視野幅は13.5mm.
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Nikon顕微鏡による拡大写真.視野幅4.5mm.かんらん石の派手な干渉色が目立つ.石基中にも様々な色のかんらん石が点在することがわかる.灰色の斜長石には左上から右下にかけて流れの構造が見える. オープンニコル下.かんらん石が高い屈折率で浮き出ているのがわかる.黒い不透明鉱物はおそらくは磁鉄鉱.
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玄武洞下の駐車場脇の円山川の水辺に落ちていた転石.一見して黄色いかんらん石が目立つ. 同 じくオープンニコル画像.幅13.5mm.かんらん石はその周囲が黄色く変質している.これはイジングサイトと呼ばれる.やや変質したかんらん石によく見 られる構造.大昔に玄武洞で拾ったとされる附属高に置いてあった石も薄片にしたことがあるが,同様の特徴があったと記憶する.
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Nikon顕微鏡による拡大写真.幅4.5mm.石基にうもれるかんらん石は黄色く変質しているものが多いように見える. オープンニコルによる画像.黄色く変質している部分の構造がよくわかる.斜長石の流れ構造も顕著.
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最 後の地点,夜久野玄武岩公園の下にある河原の転石.こちらも稲葉川のものと同様,かんらん石は新鮮なものが多い.しかしこの岩石は実は基質がやや脆く,薄 片を製作中に表面に小さな穴のようなものが散見された.薄片にするとこのクロスニコルでは,接着剤がつまって,黒く穴となっているはず. オープンニコルによる広視野画像.13.5mm幅.ひし形の自形のかんらん石も見える.
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Nikon顕微鏡による拡大写真.視野幅4.5mm.クロスニコル.やや大きな斜長石とかんらん石が中央に見える. 中央のかんらん石の斑晶がほんのわずかに黄色く変色しているのは,変質部分か.

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