松江市近郊と大根島のアルカリ玄武岩について Y.Okamoto 2022-08-18
島根半島や隠岐の島は日本では割と少ないアルカリ玄武岩が出るので有名です.まずこの玄武岩の性質について自分の事前の勉強用に,簡単にまとめます.結構ややこしいです.
大昔,私が受講した大学の地質学のある科目では,久野論文の紹介のほか,この系列の区別だけで半期終わったような記憶があります.
隠岐や大根島のアルカリ玄武岩がなぜ地質学的に重要かという,議論は現地でも聞けると思うのでその参考にしてください.
久城(1983)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/92/7/92_7_508/_pdf
を参考にしました,
かなり専門的な動画(英語)は
https://www.youtube.com/watch?v=Ow58hhjCFLM
さらに,下記の解説
2016小出_溶融状態における火成岩の化学的多様性の形成-1.pdf
なども参考になります.
一口に玄武岩と言っても岩石学的には
https://www.trekgeo.net/m/m/rBasalt/rBasalt.htm より
地表に噴出したマグマにより形成された苦鉄質(塩基性)の火山岩である玄武岩に含まれる造岩鉱物。
化学組成より、低アルカリソレアイト玄武岩、高アルカリソレアイト玄武岩、高アルミナ玄武岩、アルカリ玄武岩に分類される。
また鉱物組み合わせより、上部マントルの部分溶融度が大きいソレアイト玄武岩、部分溶融度が小さいアルカリ玄武岩と、
起源について議論の続いているカルクアルカリ玄武岩に分類される。
上部マントルはレールゾライトから出来ているが、
ソレアイト玄武岩などのマグマを放出した上部マントルの溶け残りは、ハルツバージャイトだと考えられている。
ソレアイト系列(ピジョン輝石系列)ではマグマの分化に従いSiO2が増加せずにFeOが増加し、
カルクアルカリ系列(ハイパーシン系列)ではSiO2が増加しFeOが増加せず、それぞれ鉱物組み合わせが異なる。
ソレアイト玄武岩には、海嶺に見られる中央海嶺玄武岩(MORB)、ホットスポット火山に見られる海洋島玄武岩、沈み込み帯の島弧に見られる島弧玄武岩、
マントルプルームに伴う洪水玄武岩などがある。
カルクアルカリ玄武岩には、沈み込み帯の島弧に見られる島弧玄武岩がある。
これらの分類はとくに,同じ火山や近隣の火山などで,連続的に組成が変化する玄武岩などの成分分析から導かれる.そしてその区別はそれぞれ出来かたの異な
るマグマの成因に依拠すると考えられる.ただ,ここには例えばBowenの本源マグマという考え方や結晶分化作用などの基本(すなわち多様な地球上の火山
岩はただ一つのマグマから分化して生成したという考え方)はおさえた上での議論になることには注意.
上記のうち
アルカリ玄武岩
高アルミナ玄武岩
ソレアイト質玄武岩
の3種類について,それをもたらしたマグマの発生場所の深さに初めて言及したのが,久野(1966)であった.
久野は,日本列島の海溝側から,日本海側に向けて上記3種類の玄武岩が分布することを説明する,玄武岩マグマの発生モデルとして上記のようなものを考えた.
この推定図は当時勃興しつつあった,プレートテクトニクスとも極めて調和的なモデルで脚光を浴びることになる.ちなみに地震学の方ではほぼ同時期の和達−ベニヨフ面の発見もプレート説に寄与する.
現在ではもちろんこのモデルにも様々な欠陥
がその後みつかり,今はそのまま信じるわけにはいかないが,3種類の玄武岩の本質的な違いを言い当てたモデルとして現在でも有名である.
日本列島に多い.カルクアルカリ質安山岩が上記カルクアルカリ玄武岩のグループに属するがこれはもともと玄武岩質ではなく,安山岩質のマグマが島弧の地下で発生するモデルが作られており,現在でもこれら元のマグマの発生に関する論争が続いている.
最近の論文(A genetic classification of the tholeiitic and calc-alkaline magma serie,P. Vermeesch1* , V. Pease,2021)で
はソレアイトとカルクアルカリの系列の進化の違いを3つの成分,すなわちA(アルカリNa2O+K2O),F(FeO+T,鉄+チタン),M(MgO)で
表示することにより,2つの系列のマグマでの進化(結晶分化)の違いを見せている.Fennerはマグマ分化の初期に鉄が増加するトレンド(ソレアイト系列(ピジョン輝石系列)ではマグマの分化に従いSiO2が増加せずにFeOが増加),Bowenは鉄が増加しないトレンド(カルクアルカリ系列(ハイパーシン系列)ではSiO2が増加しFeOが増加せず)を示す.
b(玄武岩)からr(流紋岩)はキャプションを参照のこと.要するに,マグマの発生場所のちがい(中央海嶺か,島弧か)がこの2つの系列の違いの根本にあるという説明(上記の動画https://www.youtube.com/watch?v=Ow58hhjCFLMの5分あたりの説明)を参考に.
https://www.geochemicalperspectivesletters.org/article2125/#Fig1 に岡本が加筆
なお,http://earthresources.sakura.ne.jp/er/ES_C_G2.html
による,岩石学的(薄片観察)な定義は下記のものとなる.周藤・牛来(1997)による〔『地殻・マントル構成物質』(92-97p)から〕
ソレアイト質玄武岩
斑晶鉱物としてカンラン石や斜方輝石がふくまれているときには、Caにとぼしい単斜輝石(ピジョン輝石)の反応縁をもっていることが多い。また石基鉱物の輝石の多くは単斜輝石(ピジョン輝石あるいはオージャイト)である。
ソレアイト質玄武岩のうち、比較的SiO2にとぼしくてノルム鉱物としてカンラン石が算出されるものがカンラン石ソレアイトで、比較的SiO2に富みノルム石英が算出されるものが石英ソレアイトである(図2.31参照:略)。
ソレアイト質玄武岩のうち、アルカリ成分が比較的多いものが高アルカリソレアイト(high alkali tholeiite)で、すくないものが低アルカリソレアイト(low
alkali tholeiite)である。前者のうち、とくにAl2O3(アルミナ)に富むもの(18%±)を高アルミナ玄武岩(high
alumina basalt)とよぶことがある(Kuno, 1968)。
ソレアイト質玄武岩は各種の玄武岩のうちで最も多量にあるもので、広大な溶岩台地を形成している台地玄武岩(plateau
basalt;洪水玄武岩・flood basalt)や中央海嶺の多くのものは、この種の玄武岩から構成されている。また日本の現在の火山帯にみられる玄武岩のほとんどもこの種のものである。
アルカリ玄武岩
カンラン石・オージャイト・斜長石や少量のアルカリ長石などからなり、斑晶のカンラン石はピジョン輝石の反応縁をもっていない。また石基にもカンラン石
がふくまれ、斜方輝石やピジョン輝石がふくまれないことも、アルカリ玄武岩の特徴である。一般にアルカリ玄武岩からは、ノルム鉱物としてネフェリンが計算
される(図2.31参照:略)。
アルカリ玄武岩のうちアルカリ成分に富みSiO2にとぼしく、斑晶鉱物にネフェリンなどの準長石をふくむものを強アルカリ玄武岩とよび、準長石をほとんどふくまないアルカリ玄武岩と区別する。強アルカリ玄武岩にはNa2Oに富むネフェリンベイサナイト(nepheline basanite)・カンラン石ネフェリナイト(olivine
nephelinite)、K2Oに富むリューサイトベイサナイト(leucite basanite)・カンラン石リューシタイト(olivine
leucitite)などがある。またアルカリ玄武岩と粗面安山岩の中間型を粗面玄武岩(trachybasalt)という。
なおSiO2に比較的富む(その点ではソレアイト質玄武岩に似ている)が、アルカリ成分、とくにK2O/Na2O値の大きい(1以上)アルカリ玄武岩を
ショショナイト(shoshonite)とよぶことがある。またソレアイト質玄武岩やアルカリ玄武岩よりも、カンラン石や輝石が多く斜長石のすくないもの
は、玄武岩と超マフィックなコマチアイトとの中間の組成をもち、一般にピクライト質玄武岩(picrite basalt)とよばれる。オセアナイト(oceanite)・アンカラマイト(ankaramite)・リンバージャイト(limburgite)などは、この種のものである。
アルカリ玄武岩はソレアイト質玄武岩に比べて一般に少量で、日本では山陰-九州北部地域などにみられる新生代玄武岩に、この型のものがある。
なおソレアイト質の玄武岩のうち,中央海嶺に観られるものを特にMORBという(最近の分類).マントルからもっとも初生的に発生するマグマからできるとされる.
MORB
通常の(normal)N-MORB・不適合元素に富んでいる(enrichしている)E-MORB・両者の中間的な(transitional)T-MORBに細分される。このうちN-MORBが中央海嶺に最も広くみいだされており、E-MORBはアイスランドに典型的に露出する。アイスランドは中央海嶺とマントルプリューム(mantle
plume)の両者のテクトニクス場となっているとみられていることから、E-MORBはP-MORBとよばれこともある。T-MORBは大西洋中央海嶺の一部で、アイスランドに近いレイキャネス海嶺(Reykjanes
ridge)やアゾレスの南側斜面などにみられる。
さらにアルカリ岩と非アルカリ岩との区別は,下記の図のようにSiO2 VS.Na2O+K2Oのグラフ(Total alkali versus SiO2 (TAS) diagram)の上部,下部で区別される.これによるとハワイの玄武岩は分類上はアルカリ玄武岩に属する.ハワイはさておき,一般的に造山帯(プレート沈み込み境界)におけるアルカリ玄武岩の活動は海溝から遠い場所で見つかるのは久野があきらかにしたとおり.これは現在でもマグマ発生の深さと関連すると考えられている.島根半島はそうしたアルカリ玄武岩がみつかる日本でも珍しい場所の一つ.
下記にアルカリ岩の代表として,ハワイの玄武岩と隠岐のアルカリ岩,非アルカリ火山岩として,榛名火山のものをプロットした.非アルカリ火山岩はほぼ日本列島の大部分の火山が相当するが,なかなか成分グラフを見つけれなかったので,榛名火山で代表させる.
上図は
https://www.researchgate.net/profile/Pietro-Armienti/publication/228684539/figure/fig3/AS:349385314586627@1460311358312/TAS-classification-diagram-Le-Bas-et-al-1986-for-DP-samples-Alkaline-Subalkaline.png
より
Hwaiitteの成分はhttps://www.researchgate.net/figure/TAS-classification-diagram-Le-Bas-et-al-1986-for-DP-samples-Alkaline-Subalkaline_fig3_228684539/download より
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gkk/31/3/31_3_137/_pdf 隠岐アルカリ岩の組成
https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/haruna/page4_2_1.html 榛名火山の全岩組成
<巡検参考論文&記事>
沢田 輝さんのWebサイトよりhttps://planet-scope.info/index.html
島根県出雲市日御碕~日本海岸沿い~松江市大根島
https://planet-scope.info/Hinomisaki_Shimane.html
島根県浜田市の周防帯(三郡変成帯)&黄長石霞石玄武岩
https://planet-scope.info/Hamada_Shimane.html
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